11月2日、滋賀県中小企業診断士協会の「診断士の日」講演で、40分お話ししました。テーマは、AIが町の小さな会社の経営と、それを支える私たち支援者の仕事をどう変えるか。事例を交えて話した内容をまとめます。

講演では、最初に最近のできごとを一つ紹介しました。今年9月、ある業界団体から研修の依頼をいただきました。どうして私を知ったのか聞くと、「ChatGPTに聞いたら、岡さんがおすすめだと出てきた」とのこと。そういう時代になりました。

診断士の日の会場。スクリーンに講演タイトル「生成AIは、中小企業の経営をどう変えるか」

8割と、2割

最初に、会場へ二つ質問しました。

「この1か月、ご自身の仕事で生成AIを使った方」。会場を見渡すと、8割以上の手が挙がりました。

「この1か月で、担当先の経営者から『AIでこんなことを試した』という話を聞いた方」。こちらは2割ほどでした。

支援者は自分の仕事でAIを使っている。でも、社長が試した話は、まだあまり聞こえてこない。

ただ、私が関わっている小さな会社では、もう始まっています。

長浜の金属加工メーカーで、その場でチラシができた

小さな会社は、やりたいことがあっても、人も専門のスキルも時間も足りず、いろいろなことを諦めてきました。

長浜市の落合製作所さんで経営診断をしたとき、社長は新規のお客さんをどう開拓するかに悩まれていました。そこで、会社の強みと、お客さんに喜ばれた話を聞かせてもらいました。

聞きながらGeminiに入れて「A4一枚のチラシを作って」と頼み、その場で叩き台をお見せしました。社長から写真をいただいて仕上げ、いまは印刷してお客さんに配ったり、Googleマップに載せたりしていただいています。

落合製作所さんの話からその場で作った営業チラシ(講演スライド)

効いているのはAIだけではありません。社長から強みと「喜ばれた話」を引き出せたから、一枚が出てきました。そこが空っぽなら、AIに頼んでもチラシにはなりません。

漬物の社長さんたちは、自分で試していた

滋賀県の漬物の組合では、社長さん自身がAIを使っている話を聞きました。

ある社長は、AIに最初のレシピ案を出してもらい、それに沿って試作しています。味見をして、製造担当の方と相談しながら直し、新しい漬物を素早く形にできたそうです。

別の漬物店さんは、パッケージデザインの案をAIに出してもらっています。外国からのお客さんもよく立ち寄るので、いろいろな言語の店頭POPや説明文も、自分で作れるようになりました。

試しながら決める。経験を次に残す

こうした事例を、2つの軸で整理してみました。

AI活用マップ。横軸は試し方、縦軸は経験の使い方の4象限

横軸は試し方で、右に行くほど試しながら決める。縦軸は経験の使い方で、上に行くほど経験が積み上がって次に生きる。

一回にかかる費用や時間が大きいと、十分に検討してから動くことになります。一回が重く、外すと痛い。さらに、その結果や判断の理由が次に残らなければ、左下の「一発勝負型」にとどまります。

AIで形にする手間が下がり、右下の「多打席型」に動けるようになりました。案を比べたり、試してすぐ直したり、お客さんへの伝え方を変えてみたりが、気軽にできます。

社長と相談するための道具も、その場で作れます。講演では、架空の会社の決算書と売上明細をGeminiに渡し、3分ほどで価格転嫁のシミュレーターを作るデモをお見せしました。どの製品を何%上げるか、販売数が減ったら利益はどうなるか。画面を動かしながら社長と確かめ、そのままお客さんへの説明スライドまで作れます。

価格転嫁シミュレーションの流れ(架空企業の資料で作成)

上に向かう例もあります。いま支援している会社では、社長を含む6人との対話の録音、課題として提出してもらった事例のExcel、ホワイトボードの写真をChatGPTで集約し、150件の経験・事例を整理しました。ホームページやプレスリリース、提案書に何度でも使える、会社のネタ帳です。

この二つが掛け合わさると、右上の「学習循環型」に向かいます。ポイントは、結果だけでなく理由も残すこと。漬物の試作なら「ちょっとしょっぱいから塩を減らした」。この一言があるだけで、次の判断が速く、確かになります。

録音すれば文字になり、走り書きのメモも写真に撮れば読み取ってくれる。理由を残す手間も、AIで大きく下がりました。

決める人が、その場にいる

AIを使えば、調べものや試作、資料づくりにかかる時間と費用をぐっと減らせます。思いついたことを、すぐ試せます。

小さな会社は、決める人が現場にもお客さんにも近い。反応を見て、すぐ次を試せます。これが、AI時代の小さな会社の強みになります。

使う前に、考えておきたいこと

社長から「先生、決算書ってAIに入れていいんですか」と聞かれたら、どう答えるか。

「学習オフにしておけば大丈夫」とよく言われます。最低限それはしておきたいところですが、私はそれに加えて、どのAIサービスか、個人向けか法人向けかといった契約の中身、入れる情報が一般の情報か営業秘密か個人情報か、の三つを確かめます。使うか使わないかの二択ではなく、どう使えば大丈夫かを、社長と一緒に考えたいと思っています。

日本税理士会連合会も9月30日に、会員向けに「税理士事務所のためのAI・クラウド活用ガイドライン(Ver.1.0)」を案内しています。

もう一つ、長い目で気になっていることがあります。調べる、まとめる、資料を作る。これまで若い人が経験を積んできた仕事を、AIがこなすようになっています。効率化と引き換えに、若い人が試行錯誤する機会まで減らしてしまわないか。限られた人数で回している小さな会社が、一社だけで育成の仕組みを組み直すのは簡単ではありません。地域で一緒に考えていきたいテーマです。AIを使って自分で試し、お客さんの反応を見る。そうした経験を積める機会も、一緒につくっていきたいと思います。

支援する側にできること

社長が自分で判断して試していけるように、支援者はすぐ隣で一緒に手を動かし、試し続けられる環境をつくる。何を試すかを話し合い、実際にやってみて、結果を見てまた次の一手を考える。これを小さく何度も繰り返します。私自身も、普段の支援ではこうして社長と一緒に手を動かしています。

そのためには、気軽に相談できる相手、情報を安心して扱うための決まり、若い人が経験を積める場、試した経験を持ち寄れる場が要ります。診断士、金融機関、行政や支援機関が、それぞれの立場でできることを持ち寄れば、そろえていけます。

一つ、思い浮かべてみてください

来年の診断士の日には、「社長がAIでこんなことを試した」という話を、もっと聞けたらうれしいです。

経営者の方はご自身の会社で、支援する方は担当先の社長と一緒に、「本当はやってみたいけれど、諦めていること」を一つ思い浮かべてみてください。

その中に、最初の一打席があります。

「小さいからできない」から、「小さいから試せる」へ。そして、試すほど強くなる会社へ。

講演の締めのスライドと会場