生成AIで、案の一覧や比較表まで数十秒で返ってくるようになりました。それでも仕事が前に進むのは、出てきた答えを信じるのか、確かめるのか、使わないのかを人が決めたときで、自分で考える理由は「人間にしかできないから」だけでは説明がつきません。

生成AIを使うようになって、考える時間はずいぶん短くなりました。

アイデアを10個出してほしい。

この企画の問題点を挙げてほしい。

A案とB案を比較してほしい。

会議資料の構成を考えてほしい。

少し前なら30分、1時間とかかっていたことでも、数十秒で案の一覧や比較表、資料の構成案まで返ってきます。

私自身、中小企業の経営支援や研修の仕事で、生成AIを毎日のように使っています。企画を考えるときも、文章を書くときも、分析するときも。使えるところは、どんどん使ったほうがいい。そう思っています。

では、AIがこれだけ考えてくれるようになった今、なぜ改めて「考えること」なのか。

「人間にしかできないこと」をやればいい?

AIの話になると、「これからは、人間にしかできないことが大切になる」とよく聞きます。

私も、そう考えていた時期がありました。ただ最近、この言葉がちょっと引っかかっています。

100メートル先へ行くなら、人が走るより車のほうが速い。それでも陸上の100メートル走には意味があります。人が自分の身体でどこまで速く走れるかを競っているからです。荷物を100メートル先へ運ぶ仕事なら、話は別。車で運べばいい。

誰がやるかは、「人間にしかできないか」だけでは決まりません。「何のためにやるのか」で変わります。

企画なら、AIのほうが短時間で多くの案を出せる以上、アイデアを出すところまで人間が抱える必要はないかもしれない。資料も、AIのほうが速く、きれいに作れるようになれば、人間が一からPowerPointを作る意味は薄くなるでしょう。

さらにAIの性能が上がれば、比較や分析だけでなく、「この案がよいと思います」という判断まで、人間より上手になるかもしれません。

そうなっても、「最後に決めるのは人間です」と言い続けられるのか。

私には、まだどちらとも言い切れません。

AIに答えを出してもらっても、仕事は終わらない

AIから答えが返ってきても、それだけでは仕事は前に進まない。

たとえば、新しいサービスを考える場面。AIに聞けば、

「ターゲットはこの層がよい」

「このサービス名がよい」

「価格はこのくらい」

「こんなキャッチコピーが考えられる」

と、次々に案を出してくれます。以前なら、ここまで出すこと自体が仕事の大きな部分でした。

今は、そこから先が残ります。

本当にそのお客さまを狙うのか。

このサービスを始めるのか。

AIが勧める案と、現場で聞いてきた話が違ったら、どちらを信じるか。

まだ分からないなら、誰に何を聞きに行くか。

そして、どこかで「これでやってみよう」と決めなければならない。

答えを出すのに時間がかからなくなった分、出てきた答えを信じるのか、確かめるのか、使わないのか。それを決める場面が増えたと感じています。

速くなったところと、変わっていないところ

仕事 AI以前 AI以後
情報を集める人が時間をかけるAIが短時間で集める
整理・比較する人が表を作るAIがすぐ作る
案を出す人が考えるAIが大量に出す
何を問うかを決める
何を大事にするかを決める
決めて、引き受ける

情報を集める、整理する、案を出す。ここはAIで大きく速くなりました。何を問うか、何を大事にするか、決めてその結果を引き受けるか。こちらは今のところ、人の手に残ったままです。

変わる前と後を並べて比べるだけですが、こういう整理はBefore / Afterと呼ばれます。何が変わって、何が変わっていないのかを、紙一枚で確かめられます。

Before / Afterの手書きメモ。左に「AI以前」、右に「AI以後」と書き、矢印でつないだ枠。
紙に書くなら、これだけで足ります。左に前、右に後を書いて並べる。

「答えを出す」より、「どう考え、どう扱うか」

AIには、かなり働いてもらう。問題は、そのあとです。

事実と解釈をどう分けるか。

そもそも、何を考えるべきなのか。

AIが並べた選択肢だけで足りているか。

何を大事にして選ぶか。

数字に出ない引っかかりをどう扱うか。

何が分かっていて、何がまだ分からないか。

選ぶ前に何を確かめるか。

いつ「これでやってみる」と決めるか。

考えることと決めることはひと続きで、実際の仕事ではきれいには分かれません。

私も経営支援の現場では、紙に書いて、分ける、並べる、比べる、確かめる、ということをよくやります。

それでも、自分で考えるのか

もし将来、AIのほうが人間より正確に分析し、よい企画を考え、よい判断をするようになったら。私たちは、自分で考える必要があるのでしょうか。

「人間にしかできないから」では、どうも答えにならない気がしています。AIにできることは、これからも増えていくからです。

それでも自分で考えるとすれば、そこにはどんな意味があるのか。

私はまだ、その答えをきれいには持っていません。

ただ、AIを使って実際の仕事を進めるほど、気になることが変わってきました。「AIに何を考えてもらうか」より、「出てきたものを、自分はどう扱うのか」。

あなたの案件でも、ちょっとやってみませんか

最近AIに聞いたことを、一つ思い出してみましょう。その答えを受け取ったあと、自分は何を決めたのか。一文で書いてみませんか。

書いてみると、AIに聞いたことと、自分が決めたことの間に、意外と距離があるかもしれません。