支援先の社長から、こう聞かれたとします。

「ChatGPTって便利ですね。うちでも顧客情報を入れて、営業資料を作らせても大丈夫ですか?」

こういう場面、これから増えていくと思います。

さて、何と答えるでしょうか。

「原則だめです」は、たしかに分かりやすい

現場では、こう答えている方も多いと思います。

「顧客情報は、原則入れない方がいいです」

分かりやすいですし、経営者にもすぐ伝わります。条件をいくつも並べて説明すると、たいてい「で、結局どっちなんですか」と言われますから、線を引いてあげる方が親切な場面もある。私も、その場でそう言うことはあります。

ただ、この言い方には続きがあります。

一律に禁止すると、活用そのものが止まることもあれば、会社から見えない利用が残ることもあります。厄介なのは後者です。禁止したつもりでも、使うのをやめるのではなく、見えなくなるだけ。

私なら、分かりやすさは落とさずに、話が止まらない言い方にします。たとえば、こうです。

「今日のところは、実際の顧客情報は入れずに始めましょう。何に使うかが決まったら、必要な情報と利用環境を確認して、扱い方を考えましょう」

「原則だめ」と同じくらいはっきりしていて、その場で言えて、続きがある。経営者からすると「いまはやめとけ」と聞こえますから、伝わり方も変わりません。

このあと確認したいのが、次の3つ。

「顧客情報をAIに入れて大丈夫?」と聞かれたときに確認する3つ。1 何に使う?(目的を確認する)、2 本当に必要な情報は?、3 どのAIをどんな環境で?
顧客情報をAIに入れる前に確認する3つ

確認すること① 何に使うのか

営業資料を作りたいのか、顧客を分類したいのか、問い合わせへの返信文を作りたいのか。目的が変われば、必要な情報も変わります。

ここが決まらないうちは、「この情報は入れてよいか」という問いが成り立ちません。何のために必要なのかが分からなければ、必要かどうかも判断できない。

確認すること② その情報は、本当に必要か

支援先が、こう言ったとします。

「この顧客一覧をAIに入れて、重点的に営業すべき先を考えてもらいたい」

顧客一覧には、会社名、担当者名、電話番号、売上金額、購入商品、最終取引日が入っています。

私なら、まずこう聞きます。

「その分析に、担当者名や電話番号は必要ですか?」

重点先を見つけたいのであれば、使うのは売上規模、商品構成、最終購入時期あたりでしょう。担当者名も電話番号も、分析には使いません。

それなら、渡さなくていい。会社名も、A社・B社と置き換えれば足りるかもしれません。

先に考えたいのは、隠し方ではありません。

生成AIとセキュリティの話になると、どうしても「どうやって伏せるか」「どこまで隠せば安全か」という方向に行きがちです。ところが、隠す工夫には抜けが出ます。氏名を消しても、支店名と役職と年代が残っていれば、同じ職場の人には誰のことか分かってしまう。顧客名を記号に置き換えても、取引日と金額が残っていれば、営業担当者には特定できてしまう。

必要のない情報まで渡さない。それだけでも、情報流出のリスクが一つ減ります。

どう隠すかを考える前に、そもそも渡す必要があるかを考える。

この順番だけは、目的が何であっても、使っているAIが何であっても変わりません。

確認すること③ どのAIを、どんな環境で使っているのか

業務によっては、実際のデータを扱う必要も出てきます。

そうなれば、次は利用環境です。

入力したデータはどう扱われるのか。契約ではどう定められているのか。会社が利用状況を把握できるのか。データはいつまで残るのか。

見るべきは、料金そのものではありません。組織として管理できる契約・環境かどうか。

個人向けの利用環境と、管理者がアカウントや権限を管理できる組織向け環境とでは、会社として担保できる範囲が異なります。個人契約のままでは、会社が利用状況を把握したり、退職時に業務情報を確実に回収したりすることが難しくなる。

次回は、この違いをもう少し具体的に。

支援先には、こう聞いてみる

「AIに何をしてほしいですか?」
「そのために、この顧客情報は全部必要ですか?」
「いま、会社として使っているAIはありますか?」

この3つを順に聞くと、話の輪郭が見えてきます。

もちろん、これで全部ではありません。外部に出す資料なら、AIの出力をどう確認し、何に使うのかも考える必要があります。まず入口で確認したいのが、この3つです。

経営者の方がお読みでしたら、顧客情報をAIに入れる前に、ご自身でこの3つを確認してみてください。これだけでも、「とりあえず全部入れる」とは違うスタートになります。

この連載で使う「4つの問い」

生成AIを仕事で使うとき、見るべきことは4つあります。

生成AIを仕事で使うときの4つの問い。①何をAIに入れるか(今回はここ)②AIにどこまでアクセスさせるか ③出力を何に使うか ④どこまでAIに任せるか
生成AIを仕事で使うときの4つの問い。第1回で扱うのは①

今回扱ったのは、主に①。②から④は、回を追って見ていきます。

4つ全部を毎回チェックするものではありません。 チャットで文章を書かせるだけなら、主に①と③。ファイルや業務基盤につなぐようになると②が効いてきます。AIに実行までさせるなら④。深く使うほど、見るべき問いが増える。

AIを「どこに」使うかの整理は、活用マップで別に扱っています。

慌てて○か×を答えない

「顧客情報を入れて大丈夫?」と聞かれても、その場で○か×を出す必要はありません。

まず、目的。次に、必要な情報。そして、利用環境。

私なら、この順番で話を始めます。確認が終わるまでは実際の顧客情報を入れずに始める。それくらいなら、聞かれたその場で言えます。

次回は、「無料版・有料版・法人版、何が違う?」へ。