前回、「ChatGPTに顧客情報を入れても大丈夫ですか」と聞かれたとき、まず確認したい3つを取り上げました。
何に使うのか。その情報は本当に必要なのか。どのAIを、どんな環境で使っているのか。
3つ目まで話すと、こんな質問が返ってくることがあります。
「じゃあ、有料版を使えば大丈夫なんですよね?」
私なら、こう答えます。
「料金だけでは決められないんです。会社として管理できているかどうかも確かめます」
「有料版」のひとことに、二種類ある
生成AIには、無料で使うもの、個人で契約する有料プラン、会社や組織で契約する環境があります。これを料金順に並べると、違いが見えなくなる。
無料から個人向けの有料プランに変えると、使える機能や利用量が変わります。
一方、個人向けから組織向けに変えると、会社が管理できる範囲が広がります。誰がアカウントを持つのか。利用者と権限を会社側で管理できるのか。誰が何に使っているか確認できるのか。退職や異動のときに止められるのか。
無料と個人有料の差は、機能。
個人有料と法人向けの差は、統制。
「統制」は堅い言葉ですが、中身はいま並べたとおりです。会社が決められる。確認できる。必要なら止められる。
「高いプランだから安全」ではありません。
その社員が辞めたら、どうなるか
社員が自分で有料プランを契約して、仕事にも使っているとします。
高性能なモデルが使える。ファイルも読ませられる。本人は学習利用の設定も確認している。
ここだけ見れば、無料版よりよほど安心に見えます。
では、その社員が退職したら。
会社は、そのアカウントを止められるでしょうか。業務で使ったやり取りやファイルを、回収できるでしょうか。これまで何を入力していたのか、会社から確認できるでしょうか。
個人契約のままだと、会社側から止めたり、業務情報を回収したりしにくい。
「有料にすると安全になる」のではありません。「組織として管理できるようになる」んです。 同じ「有料」でも、個人有料で増えるのは自分が使える機能、組織向けで増えるのは会社が管理できる範囲です。
「学習利用はオフにしています」と言われたら
もう一つ、よく返ってくるのがこれです。
「学習に使われない設定にしてあるので、大丈夫です」
設定画面を開いて、学習利用をオフにする。必要な作業です。
ただ、設定で学習利用をオフにすることと、データの扱いが契約で定められていることは別です。設定も規約も、事業者の側で変えられます。
組織向けのサービスでは、入力したデータをどう扱うかが、契約条件として書かれているものがあります。
設定で学習利用を止めることを、オプトアウトと呼びます。データの取り扱いについて定める契約が、DPA(データ処理契約)です。
サービスの比較表や契約ページでは、この言葉が出てきます。
設定は変わることがあるので、支援先に伝えるときは一言足します。
「設定して、そのあとも定期的に確認してください」
環境を確認するとき、何を聞くか
支援先で利用環境を確認するときは、次の7項目を使います。
| 項目 | 確かめること |
|---|---|
| 入力データの学習利用 | 設定で変えられるか。契約で担保されるか |
| データの保持期間 | どれくらい残るか |
| DPA(データ処理契約) | 事業者に取扱いの義務を負わせられるか |
| 管理者機能・権限管理 | 誰が何に使っているか把握できるか |
| ログ | 後から追えるか |
| リージョン | データがどこの国に置かれるか |
| 退職・異動時 | アカウントと情報を回収できるか |
※典型的な違いです。中身はサービス・プランによって異なります。
個人情報を海外のサーバーに置くと、本人への説明や、移転先の体制の確認が要ることがあります。個人情報保護法では越境移転と呼ばれる論点です。
管理者機能があれば、誰にどこまで使わせるかを会社で決められます。ログが残れば、何か起きたときに、誰が何をしたのかを後から確かめられる。
生成AIだけの特別な話ではありません。情報セキュリティでは、もともとこういうところを確認します。誰がどのシステムを使えるか自体が決まっていなければ、生成AIの前に、アカウントと権限を整理する必要があります。
この表は、支援先の前で開いて、そのまま聞けます。時間が取れないときは、学習利用の設定、DPA、管理者機能、退職時の回収。私なら、この4つから聞きます。
無料版や個人契約でも、ここまではできる
公開情報や架空のデータで文章を作る。顧客別の一覧をそのまま渡さず、集計した数字や一般化した条件だけを渡す。第1回で扱った「渡す必要があるか」の続きです。
ほかにも、個人でできることがあります。
- 業務用と個人用のアカウントを分ける
- 学習利用と履歴の設定を確認する
- 案件ごとにスレッドを分ける
- 渡す情報を、必要な範囲に絞る
会社で管理できる機能が少ない分、使う人の設定や社内ルールに頼る部分が増えます。担当者が変われば、やり方も変わります。
個人で頑張っても、届かない範囲がある
上の4つは、全部「個人でできること」です。
実際の業務データを扱いたい。複数の社員で使いたい。会社として利用状況を把握したい。ここまで来ると、個人の設定では届きません。
「顧客情報をAIに入れてよいか」は、使う人が案件ごとに決めることではなく、会社として決めておくことです。 案件ごとに担当者が判断すると、人によって線引きが変わります。
支援先で「担当者が気をつけています」という話が出てきたら、決めているのは会社ではなく、その担当者です。
組織向けには、どんなプランがあるか
「では、何を契約すればいいのか」と聞かれます。主なサービスの組織向けプランは、2026年9月の時点でこの名前です。
| サービス | 主な組織向けプラン |
|---|---|
| ChatGPT(OpenAI) | ChatGPT Business(2025年8月にTeamから改称)/ChatGPT Enterprise |
| Gemini(Google) | Google Workspace の Business・Enterprise 各エディション。以前あった「Gemini アドオン」は廃止され、各エディションに組み込まれました |
| Claude(Anthropic) | Claude Team/Claude Enterprise |
| Microsoft | Microsoft 365 Copilot |
プラン名も料金も変わります。契約前に各社の公式ページで確かめてください。
契約の形が何であっても、確かめるのは前の7項目です。
支援先には、こう聞いてみる
「そのAI、誰の名前で契約していますか」
「いま社内で誰が何に使っているか、会社として把握できますか」
「その人が辞めたら、やり取りは回収できますか」
この3つに答えが出れば、会社として管理できている範囲が分かります。答えが出ないところが、まだ決まっていないところです。
第1回で挙げた「どのAIを、どんな環境で使っているのか」で確認したかったのは、この3つでした。
次回は、出力側です。「AIが出してきた答え、どこまで信じていいのか」へ。
本稿は2026年9月時点の情報にもとづいています。設定画面の場所もプラン名も変わりますので、実際の確認は各社の公式ページでお願いします。