支援先の社長から、こう言われたとします。
「AIって、けっこう間違えますよね。だから全部チェックしないと、と思っているんです。でも、それをやると自分で調べるのと変わらないんですよ」
そうなんですよね。全部を確認するなら、自分で調べたほうが早い。
私なら、こう答えます。
「全部を同じ重さで確認しなくて大丈夫です。何に使うかで、確認する場所を決めましょう」
「必ず確認しましょう」は、続かない
生成AIの解説は、たいてい「出力は必ず確認してください」で終わります。
そのとおりなのですが、全部確認してください、と言われても、毎回続けるのは難しい。そのうち、重要な資料でも確認を飛ばすようになります。
間違えたときに困るところだけ、人がきちんと確認する。
そのためには、まずAIの答えを何に使うのかを決めます。
すぐ気づく間違いもあれば、気づきにくい間違いもある
決算書と売上明細をAIに読ませて、現状を整理させたとします。
戻ってきた文章に食品衛生の話が混ざっていれば、金属加工業の資料なので、すぐに「これは違う」と気づきます。笑って消せます。
厄介なのは、営業利益率が1%ずれているような間違いです。文章を読んでも違和感がありません。前後の日本語も整っています。
AIは、情報が足りないところを、それらしく補ってしまうことがあります。しかも、文章を読んだだけでは、どこまで確かなのか分かりません。
こうした、もっともらしい形で出てくる事実誤りをハルシネーションと呼びます。
文章がきれいでも、数字や事実まで正しいとは限りません。
そのAIの答え、誰に見せますか
AIが出してきた文章を、自分のメモにするのか、支援先の社長に渡すのかで、確かめ方は変わってきます。
| 何に使うか | 間違っていたら | どこまで確かめるか |
|---|---|---|
| 自分用のメモ、アイデア出し | 自分が気づけば直せる | 全体を読んで違和感がないか確認 |
| 社内の下書き | 人が手を入れてから使う | 数字・日付・固有名詞など、間違えると困るところ |
| 支援先に渡す資料 | 誤った前提のまま経営判断が進む | 元の資料と突き合わせる |
| 交渉・申請・外部への提出 | 相手に伝わったあとでは修正しにくい | 原典まで確認。AIの文章は下書きとして使う |
アイデア出しなら、欲しいのはまず案の数です。一つひとつの数字を検算する必要はないでしょう。
一方、交渉や申請に使う数字や制度の内容が間違っていたら困ります。そこは元の資料まで戻って確認します。
元の資料と突き合わせるところ
私なら、まずこのあたりを確かめます。
- 数字(計算結果、比率、合計)
- 日付と期間
- 制度名、法令名、補助金の要件
- 人名、会社名、商品名
ここは、元の資料と突き合わせれば見つけやすいところです。
ただ、それだけでは見つからないものもあります。
元の資料だけで、そこまで言えますか?
品目別の原価を記録していない会社の資料をAIに読ませた時、
「この商品は赤字の可能性が高い」
と出力してきたとします。
数字そのものは合っています。元の資料と突き合わせても、計算間違いは出てきません。文章だけ読めば、経営分析として違和感もありません。
でも、その会社には品目ごとの材料使用量も作業時間もありません。それなら、その資料だけで商品の採算までは分かりません。
この資料だけなら、
「品目別の原価が分からないため、採算は判断できません」
で本来は止めるところです。
実際には赤字かもしれません。ですから、「赤字の可能性が高い」という文章そのものが間違いだとは限りません。
ただ、この資料だけでは、そこまで言い切れない。
こういうところは、数字を一つずつ照合しても見つけにくい。
「元の資料にないことまで、言い切っていませんか?」
という目で、もう一度見直します。気になったところだけ、元の数字や記述に戻って確かめます。
「出典が付いているから大丈夫」と言われたら
社内の文書を読み込ませて、その中から答えさせる仕組みがあります。回答と一緒に、どの文書をもとにしたのかが示されるものです。RAGと呼ばれます。
どこを確認すればいいかが分かるので、確かめる手間は減ります。
ただ、その資料自体が古ければ、回答も古い内容になります。
たとえば、制度改正前のマニュアルを読ませていれば、AIがそのマニュアルどおりに答えても、現在の制度とは違っているかもしれません。
出典が付いていても、その文書を開かなければ、いつの情報なのか、AIの回答と本当に合っているのかは確認できません。
確認の手間を減らすには
- 元資料を一緒に渡して、「この資料に書かれていないことは書かないでください」と条件をつける
- 数字はAIに書かせず、文章の骨組みだけ作らせて、あとから人が入れる
- 元資料を渡しているなら、「この回答の根拠になった箇所を示してください」と聞き、示された場所を自分で開く
- 「これ、合っていますか」とAIに聞き返すだけで終わらせない。元の資料で確かめる
外に出す資料なら、最後は人が確認します。
支援先には、こう聞いてみる
「そのAIの答え、誰に見せますか」
「元の資料にないことまで、言い切っていませんか」
「間違っていたら、あとで直せますか」
第1回で挙げた4つの問いのうち、今回扱ったのは③「出力を何に使うか」です。
次回は①に戻ります。「では結局、何なら入れていいのか」へ。
本稿は2026年9月時点の考え方にもとづいています。生成AIの機能や設定は日々変わりますので、実際の運用は各社の公式情報でご確認ください。