2025年から2026年にかけて、商工会議所の職員向けに生成AI研修を何度か担当しました。全4回の研修を続けるうちに、説明する時間よりも、その場で仕事をやってみる時間を少しずつ増やしていきました。

第1回と第4回の教材を並べてみると、かなり違います。当時の教材と、受講者が書いた自由記述が手元に残っています。

事前アンケートでは、8名全員が使っていた

2026年5月14日、帝国データバンクが「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」を発表しました。2026年3月17日から31日にかけて実施し、有効回答は1万312社です。

業務で生成AIを活用している企業は、全体で34.5%でした。規模別では大企業46.5%、中小企業32.4%、小規模企業28.0%です。中小企業では、およそ3社に1社ということになります。活用している業務は、回答企業全体に対する割合で「文章の作成・要約・校正」が45.1%、「情報収集」が21.8%でした。

一方、2026年3月に、別の商工会議所の職員向けに2時間の勉強会を担当したときの事前アンケートでは、回答した8名の全員が「ほぼ毎日」または「時々使う」と答えました。

表1:事前アンケートの結果(2026年3月・商工会議所職員向け勉強会・回答8名)
質問 回答
利用頻度 ほぼ毎日 2名/時々使う 6名/使っていない 0名
使っているツール(複数回答) ChatGPT無料版 7名/Gemini無料版 4名/Gemini有料版 2名
使っている用途(複数回答) 文章作成 8名/調べもの 7名/画像作成 2名/資料作成 1名
学びたいこと(複数回答) 活用事例 7名/実践的な使い方 7名/AIでできること 4名/基本的な使い方 1名

この8名に限れば、全員がすでに生成AIを使っていました。一方、用途は文章作成と調べものに集中しています。学びたいこととして「基本的な使い方」を選んだのは1名で、多くは活用事例と実践的な使い方を挙げていました。

そこで、用意していた「生成AIとは何か」の説明は、全部落としました。当日のスライドには、こう書いて始めています。「皆さんは全員すでにAIを使っています。基礎説明は不要です」。基礎を求めた1名には、演習を回りながら個別に補いました。

事前アンケート結果(学びたいこと)の棒グラフと、『皆さんは全員すでにAIを使っています。基礎説明は不要です』と書かれた当日のスライド
図1:事前アンケートを受け、基礎説明を外して「活用事例」と「実践的な使い方」に時間を振った当日のスライド。

第1回は、事例を知る回だった

2025年8月上旬、ある商工会議所で全4回のワークショップの1回目を担当しました。90分、参加者は職員10名前後です。

構成は、生成AIに触れてもらうミニ体験を20分、活用事例の紹介を40分、参加者との対話を30分。実際の中小企業が生成AIをどう使っているかを知ってもらう回として組みました。

終了後のアンケートには、次のような記述がありました。

第2回のあとには、さらに具体的な記述が出ています。「職員のみの研修なので、実際に業務で行うことを実践的に演習してほしい」。職員向けなら、自分たちの日々の業務にもっと近づけた方がよさそうです。

そこで第2回は、構成を大きく変えました。説明の時間を削り、その分を手を動かす時間に充てています。

第1回90分(ミニ体験20分・活用事例40分・参加者との対話30分)から第2回60分(8つのワーク・プロンプト全文配布・実務に近い演習データ)へ、受講者の『実務で演習したい』という声を受けて時間配分を変えた図
図2:受講者の「実務で演習したい」という声を受けて、説明の時間を削り、その分を手を動かす時間に充てた。

7分半に1回、手を動かしてもらう

2回目は、同じ年の8月末に60分で実施しました。この60分に、ワークを8つ入れました。単純に割ると、7分半に1回は「では、実際にやってみましょう」と声をかける計算になります。

題材には、仮想のイベントを1つ立てました。ハイブリッド開催、参加者30名、5段階評価7項目と自由記述という設定です。

表2:2回目(60分)で実施した8つのワーク(題材は仮想のイベント)
ワーク 内容
1 広報原稿の校正 文体・数字・句読点の統一と、修正箇所の一覧出力
2 広報誌用コラムの生成 校正済み原稿を、題名つき200〜250字に変換
3 セルフチェック 生成した文章を、AI自身にチェックリスト形式で点検させる
4 アンケートの傾向要約 5段階評価から総合満足度・再参加意向・他薦意向を集計
5 自由記述の要点抽出 評価の高い点3つと改善要望3点を、サンプル文つきで整理
6 改善アイデア出し 次回研修に向けた改善提案を3つ
7 広報掲載文の生成 イベント報告用の読み物風コラム
8 挿絵の生成 コラムに添えるイラストのプロンプトを作り、画像を出力

会場の様子は、1回目とはっきり変わりました。「こんなの出た」「変な結果になった」という声があちこちから上がり、終了後も何人かが残って質問していきました。

ワークを8つ入れるために手を入れたのは、当日の進行よりも、前の週までの準備でした。

どれかが抜けていると、その分だけ説明の時間が増えていきます。振り返ると、手を動かす時間を増やせたかどうかは、当日より前の準備にかなり左右されていました。

受講者の質問が、次回の教材になる

2回目の冒頭は、前回のアンケートで出た質問への回答から始めました。挙がっていたのは3つです。

文字起こしについては、専用ツールにかけたうえで生成AIで補正する手順を紹介しました。要約させず、語調も言い淀みも残し、聞き取れなかった箇所は推測させずに明示させる。そのためのプロンプトを配りました。

写真のイラスト変換は、うまくいきませんでした。会場で使える環境では機能が動かず、「できませんでした」とそのまま報告しました。無料版の別のツールでは動いたので、その画面を見せて次に進みました。

第2回のスライド:Google WorkspaceのGeminiで写真のイラスト変換を試したが、『お住まいの地域ではまだ画像の編集に対応していません』と返され、うまくいかなかった画面 第3回のスライド:Google WorkspaceのGeminiで写真をイラストに変換できるようになり、写真から2種類のイラスト風画像が生成された画面
図3:左は第2回、右は約1か月後の第3回。同じ質問を、次の回でもう一度取り上げました。

3回目は9月末です。冒頭で同じ話題を取り上げ、「できるようになりました」と報告しました。1か月前に動かなかった機能が、動くようになっていたためです。スライド生成についても、その間に選択肢が増えていました。

このときは、前回できなかったことが次回にはできるようになっていました。前回の質問を次の回でもう一度取り上げると、受講者とのやり取りもつながっていきます。

2回目のあとに集まった記述には、次の2本がありました。

AIは利用してるものの、賢く使えていないので、次回の「自分のAIを作ってみよう」はとても関心があります
無料版の容量を考えず、途中からできなくなったので、次回の講義の際は容量残して受講します

3回目の「自分のAIを作ってみよう」は、もともと予定していたテーマです。この記述から、次の段階への関心があることも確認できました。

後者は、こちらの準備不足でした。無料版には一定時間内に使える回数の上限があり、演習を続けると途中で止まります。事前に案内しておくべきでした。受講者がここまで具体的に書いてくれること自体が、手を動かしていた証拠でもあります。

「知っている」から「使えている」までは4段階ある

全4回は、回ごとに到達点を置いて組みました。

研修4段階の図。第1回・可能性を知る(事例とミニ体験)、第2回・使えるようになる(実務ワーク8本)、第3回・賢く使えるようになる(GemとNotebookLM)、第4回・実践の手応えを得る(複数AIを業務フローでつなぐ)。下部に『各回のアンケートや質問を、次の回の内容に反映』の帯を通す
図4:回ごとに到達点を置き、各回のアンケートや質問を次の回の内容に反映しながら進めた。

3回目で扱ったのは、役割と手順をあらかじめ登録しておけるGemと、渡した資料の中だけで答えるNotebookLMです。教材には、中小企業省力化投資補助事業(一般型)の公募要領を使いました。「従業員数が25人の場合、補助上限額はいくらですか」「事業用のパソコンやプリンタの購入は対象になりますか」と聞いてもらいます。

NotebookLMは、資料に書かれていないことは答えません。試しに「秋におすすめの食材は」と聞くと、提供された資料には関連する情報が含まれていない、と返してきます。この動きを実際に見てもらうと、窓口業務に向いている理由が、言葉で説明するより早く伝わりました。

さらに、補足のメモを1本追加してから同じ質問をすると、回答の向きが変わりました。原則は対象外だが、限られた条件では対象になりうる、という方向です。この演習のねらいは、資料を足すとAIの答えが変わる、という動きを見てもらうことにあります。制度の解釈そのものは、最新の公募要領で確かめてもらいます。

4回目は、単発の作業から一歩進める回にしました。Deep Researchで調べ、NotebookLMで分析し、その結果からスライドを起こす。別々のツールをつないで一連の業務として動かします。ここまで来ると、AIは業務フローの一部として動きます。生成AIの活用を「組織の内側か外側か」「読むか動かすか」の2軸で見る活用マップで言えば、内側で読ませる段階から、動かす段階へ移る回です。

全4回では、「知る」から始めて、少しずつ自分の仕事で使うところまで進めました。

冒頭に挙げた2時間の勉強会で、4回に分けてやっていた内容を2時間に収められたのは、事前アンケートで参加者が第2段階を通過済みだと分かり、前半を飛ばせたからです。画像や動画をAIに読ませるワーク、アンケートを分析して報告書まで書かせるワーク、NotebookLMで公募要領を扱うワークを、休憩5分をはさんで詰め込みました。

依頼するときは、やってみたいことまで決めておく

職員が今どこまで生成AIを使えているかは、日々の業務からは見えにくいところです。研修を発注する立場から、講師に任せきりにせず先にやっておけることが4つあります。

事前アンケートを取り、講師に生で渡す。 聞くのは3つで足ります。今使っているか、何に使っているか、何を学びたいか。集計結果だけでなく、選択肢のどれが何名だったかまで渡します。「基本的な使い方を学びたい」が1名なのか6名なのかで、当日の構成は完全に変わります。

自由記述を、要約せずに渡す。 「実践が足りない」という一行が、次回の設計を決めます。角が立ちそうな言葉ほど、次の組み立てに効いてきました。要約してしまうと、その手がかりが見えにくくなります。

回数に合わせて、やり方を変える。 複数回なら、前回の反応を次回に反映できます。1回なら、事前アンケートで現在地を確かめ、要らない説明を削ります。

環境を先に伝える。 会場のネットワーク、参加者が使えるツール、無料版の利用回数。この4回で手が止まった場面は、いずれも内容よりも環境の側に理由がありました。

研修を依頼するときは、何を説明してほしいかに加えて、その場で何をやってみたいかまで見えていると進めやすくなります。やってみたい仕事が見えていると、講師側もその仕事に近い題材や演習データを先に用意しやすくなります。

支援機関の職員は、会員企業に生成AIを勧める立場です。職員自身が画像や動画、資料の分析、一連の業務フローまで体験しておけば、会員企業に提案できる生成AI活用の選択肢も広がります。

生成AI研修を依頼する前に決めておく4項目。①いま何に使っているか(事前アンケートで確かめる。選択肢ごとの人数まで講師に渡す)、②何をやってみたいか(自由記述は要約せず、そのまま共有する)、③次につなげる仕組み(複数回なら前回の反応を次回へ、1回なら事前アンケートへ)、④当日その場で使えるか(ネットワーク、使えるツール、無料版の利用回数)。下部に『何を説明してほしいか』+『その場で何をやってみたいか』の帯
図5:長文を読み切った人が持ち帰れる1枚。依頼前に確認する4項目と、講師に渡すひと言。